歩きながら会話をしたり、考え事をしたり、計算をしたり、といった2つの課題を同時進行しているときに、歩行速度が遅くなっていませんか。または、歩みのリズムが乱れていませんか。もしそうなら、認知機能の低下が始まっているのかもしれません。
スペインで行われた研究で、歩きながら別の課題をこなす「ながら歩き」の能力は54歳以降に徐々に低下し、そこには認知機能低下が関与していることが明らかになりました。
分析したのは、スペインで進行中の研究に参加した、40～64歳の住民のデータです。補助なしで歩くことができた640人を選出しました。
歩行検査はスタッフの監督下で行われ、1回の評価は45秒間で、快適速度で黙って歩く試験と、ランダムに選んだ3桁の数字から3ずつ引き算しながら歩く試験を行いました。測定したのは、一歩行周期にかかる時間と、その時間の変動です。歩行のみの場合に比べ、ながら歩きをした際に、ストライド時間とストライド時間の変動がどれだけ増えたか（DTC；デュアルタスクコスト）を計算して使用しました。
認知機能の評価として神経心理学的検査を用い、全体的な認知機能と、5つの認知領域のスコアを算出しました。
ながら歩行能力と年齢の間には非線形関係が観察されました。具体的には、54歳までは、年齢が上昇しても、ストライド時間のDTCとストライド時間の変動のDTCは変化しませんでしたが、54歳を過ぎると、それらDTCは徐々に増加していました。
歩行のみを行っている状態でのストライド時間およびストライド時間の変動と年齢の関係を調べたところ、65歳まで変化はありませんでしたが、ながら歩行では、57歳を境に、ストライド時間およびストライド時間の変動が直線的に増加していました。
次に、対象者を評価時点で42～53歳だった331人と54～64歳だった309人に分けて分析しました。42～53歳群に比べ、54～64歳群のほうが、年齢上昇と、ストライド時間のDTCおよびストライド時間の変動のDTCの増加の関係は強力でした。それらDTCと性別の間には有意な関係は見られませんでした。
続いて、認知機能検査の結果と、ストライド時間のDTCおよびストライド時間の変動のDTCの関係を検討しました。42～53歳群では、全般認知機能とこれらDTCの間に関係は見られませんでしたが、54～64歳群では、これらDTCが大きい人ほど全般認知機能のスコアが低いことが明らかになりました。認知機能の5領域のなかでは、情報処理速度と作業記憶が、ストライド時間のDTCおよびストライド時間の変動のDTCと有意な相関を示していました。
この研究では、65歳になる10年以上も前から、ながら歩きの能力は低下し始める可能性があることが指摘されました。したがって、ながら歩行能力は、脳の健康の指標となる可能性があります。今後、「認知機能を高めるための介入を行うことでながら歩行能力の維持や向上がもたらされるかどうか、また、その後、認知症の発症リスクが下げられるかどうか」、あるいは「ながら歩行訓練を行えば認知機能の維持に利益があるのか」などを調べる研究が行われる可能性があるでしょう。
著者らは、ながら歩行能力を指標にして認知機能の低下を早期に検出し、介入を行うことが、老年期における機能的自立を維持したり、認知機能を低下させないために重要だと考えているようです。
別のこと考えながら歩くって大変なことなんですね。早歩きができなくなってくることも影響がありそうですね。
記事担当：部長さかもと
引用文献：
The age-related contribution of cognitive function to dual-task gait in middle-aged adults in Spain: observations from a population-based study
Junhong Zhou*, Gabriele Cattaneo*, Wanting Yu, On-Yee Lo, Natalia A Gouskova, Selma Delgado-Gallén, Maria Redondo-Camós, Goretti España-Irla, Javier Solana-Sánchez, Josep M Tormos, Lewis A Lipsitz, David Bartrés-Faz†, Alvaro Pascual-Leone†, Brad M
