姿勢制御には、反応的姿勢制御と予測的姿勢制御があります。
反応的姿勢制御は、外乱(ぶつかられた時など)に対して姿勢を保つ姿勢調節をいいます。
例えば、歩行時に予想しないつまずきや滑りがあっても、バランスを立て直し安定した姿勢へと修正することです。
一方の予測的姿勢制御は、目的とする運動・動作に最適な姿勢を予め行い、学習による予測に基づいて、姿勢調節を行っています。
例えば、歩行中に事前に障害物を避けること、また、重いと予想される荷物を持ち上げるための姿勢や筋出力、物を持つときの手の構えを行う際に安定性を維持する動きのことです。
二つある姿勢制御の中で特に健常者との差が生じやすいと言われる予測的姿勢制御を今回はみたいと思います。
私達はあまり意識せずに立つという動作ができます。
立位の姿勢制御には視覚や前庭覚、関節の固有感覚など、多くの感覚入力と抗重力筋の出力で成り立っています。
例えば、立って手を挙げるときには、事前に姿勢が崩れないように準備をする必要があります。
人形で試していただくとわかりますが、手が横にある状態では立てる人形であっても、手を前へ出すとコテンと倒れます。
これは手を前に出すことによって、重心位置が前方に動き、この重心が落ちる位置が足底から外れるために起こります。
ヒトは成長し、立って歩けるようになる頃には、重心位置を足底に落とすバランス反応ができるようになるため、転倒しなくなります。
これは反射によっておこる訳ではなく、上位中枢機構の指令によって後天的に学習されていきます。
赤ちゃんもハイハイやつかまり立ちから転ぶことを何度も経験することで、手を伸ばしても倒れない方法を学習していきます。この学習をした経験を元に、動作で生じるであろう重心の移動を予測して姿勢を調節することができます。
具体例を手の挙上で示します。
頭の上に白い線がありますのでそこに注目いただきたいのですが、左右の絵の違いは手を挙げているかどうかだけの違いです。
足を置く位置に変化はありませんが、手を90°前に挙上するだけで、頭の位置が後に下がっていることがわかると思います。5cm前後ですので、写真ではわかりにくいかもしれませんが、上肢の重量が前方に行った分、体の位置を後に下げないと重心が足底内に落ちなくなり前に転倒します。
人間はこれを後天的に学習して体の動きを調整することを学びますが、これを予測的姿勢制御と呼んでいます。重心移動の量は、肩の挙げ具合によっても異なりますし、手にモノを持っている状態でもその量は全く異なります。しかし、状態は違っても重心の移動を瞬時に予測し、この程度体を下げれば釣り合いがとれるという所まで体を下げ、転倒を未然に防いでいます。
記事担当:部長さかもと