“目標はトイレ動作が一人でできるようになることにしましょう。”これは回復期リハ病棟で、医師から説明を受ける際に良く聞かれる目標です。
脳卒中を始めとする代表的な疾患については、予後予測の指標が作られ、入院時の状態から退院時の状態を予測し、これに基づいて最終的な日常生活活動の状態を目標として決めています。
この目標設定を行うことには当然良いことがあり、共通の目標を患者さんと治療者が共有することによって、治療の方向性をそろえ、治療者もその方向に向かって努力しますが、患者さんにも同時に努力して欲しいというメッセージがあります。
これは当然のことと言ってしまえばそれまでですが、トイレに一人で行きたいと患者さんに思っていただけなければ、トイレ動作自立にはつながりません。良くある話では、“トイレはずっと手伝ってもらいたい”と思っている方に、いくらトイレ動作訓練を行っても介助量は変化がないということがあります。
しかし、今回はこの目標の方向性をそろえましょうという話ではありません。
ある病院の回復期リハ病棟でトイレ動作が自立し退院された患者さんが、退院後すぐにトイレもできなくなってしまい、困って当院に入院して来られたことがありました。
この方は高齢ではありましたが、主たる介護者は奥様で、いわゆる老老介護の状態でした。入院中に介助方法等の指導は受けたようですが、自宅退院後数日でトイレに行けなくなってしまったという訴えでした。
目標設定において、入院期間中の歩行自立は難しいので、トイレ自立を目標として、トイレ動作訓練を集中的に行うということがありますが、トイレ動作のみを結果としてしまうと、体力の予備力もなく、自宅ですぐにADLができなくなってしまうということがあるということも考えに入れておく必要があります。
従って、当院ではトイレ自立を目標としながらも、歩行訓練を平行して実施していきます。幸いこの方の下肢麻痺は中等度であったため、靴べら型装具を医療保険で作成し、歩行訓練を行いました。
自宅では、車いすでも観察歩行でも、どちらでもトイレに行ける状態になりました。
ここから言えることは、目標は大切ですが活動のレベルがそこまでで止まってしまうと、特に高齢者では退院後の機能低下が著しくなることがあるということです。
少し前の話なので、今であれば訪問リハなどを受けることでカバーできる部分もありますが、入院中に歩行訓練をせず、杖も装具もない状態で自宅復帰しても、訪問リハの担当者は活動性を高めることに大変な思いをすることになると思います。
退院後の人生を歩むためにも、回復期リハで一緒に歩きましょう。