以前のブログで,認知症に対する脳活性化リハビリテーションについて紹介させて頂きました.認知症シリーズの最終回は,もう一度自分たちが行っている脳活性化リハビリテーションの話になります.
まずは,こんなエピソードから…
自分が以前勤務していた認知症高齢者施設でリハをしていた時のこと.対象者は体格のよい方で,能力的にも自分では立ったり歩いたりすることが難しかったため,リハの時だけ全介助で歩行練習を行っていました.具体的には,その利用者さんの後ろから身体を密着させて支えながら,ゆっくりと一歩ずつ足を前に出すのを介助するのですが,これは結構な力仕事になります.
そんな時に,近くのイスに座っていた別の利用者さんから声をかけられました.
「ねぇ,アンタ.ちょっといいかい」
エッ!?,この状況で声をかけてくるの?と少し戸惑いながらも自分には何か可笑しくも感じられたので「○○さん,ゴメンナサイ.今ちょっと△△さんが歩くのを手伝っているところだから,僕以外のスタッフにお願いしますからね.」と伝えたら,近くにいた職員が笑いながら丁寧に対応してくれました.
ある時は,やはり同じように介助で歩いていると「大変そうだねぇ.アタシも手伝おうか」と声をかけられたこともあります.
こんなことが認知症高齢者施設で働いていると時々あり,ちょっとビックリしたり,ほっこりしたりします.
さて,本題の脳活性化リハビリテーションですが,これにはいくつか原則があります.
- 快刺激 → 楽しい時間を提供することで笑顔を引き出す
- 褒める → やる気が出て前向きになる
- コミュニケーション → 周りと楽しく交流すると安心する
- 役割を持つ → 能力が発揮できると生きがいが生まれる
- 誤りをさせない課題 → 正しい方法を繰り返す
学生時代にお世話になった先生からは,「どのようなことを行うか」ではなく,「認知症高齢者と何を目的として,どう関わるか」が重要であると教わりました.
脳活性化リハビリテーションの目的は,認知症高齢者が役割を持ちながら楽しく周囲と交わることで生きがいを感じ,不安を解消して前向きに生きられるようなきっかけとなることです.脳活性化リハビリテーションによる快刺激が笑顔を引き出し,行動障害を低減させ,それによって周囲の介護者にも笑顔が戻り,これがさらに認知症高齢者の笑顔を引き出すという好循環を生み出します.
リハ職に限らず認知症高齢者を支える全ての人が,脳活性化リハビリテーションで対象者の生活を良くするのだ,という情熱を持って関われるといいですね.
記事担当 : 理学療法士 山本晋史
参考文献
山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント.協同医書出版社,2005.