群馬リハビリテーション病院(旧沢渡温泉病院)リハビリテーション部です

回復期リハ病棟156床。ロボットリハ稼働中。100名超のリハスタッフで365日リハビリ邁進中。一緒にリハビリがんばりましょう。

褒めることの功罪

 一昨年群馬県医師会報に寄稿した内容です。長文ご容赦ください


 人は褒められたい生き物のようで、他者に好意的に評価されることで、はじめて存在価値を見出せるようです。褒められずに育つと考えが偏ったり、歪んだ言動に走る可能性が高まったりすると言われますが、褒めるとは「おだてる」「甘やかす」ではなく、正当な評価を適切に行うことで人が正しく成長を援助することです。


マズロー欲求段階説では、褒められたいという欲求は上から2番目に位置します。

 下から、生理的・安全・所属・承認・自己実現の欲求ですが、ある段階の欲求を満たしたければその下の段階はある程度満たしておく必要があります。一番下は生理的欲求で、食事や睡眠の欲求であり動物的欲求と言えます。次の安全欲求は、衣食住などを確保する欲求で、自分の安全が脅かされない状態を望む欲求です。その上は所属と愛の欲求で、他者から受ける愛情のことです。次が今回ターゲットとする承認欲求で、他人から「褒められたい」「認められたい」という欲求のことで、これらの体験を積み重ねることで、自信をつけていくことができるとされています。


マズローはこの承認の欲求には2つのレベルがあると説明しています。低いレベルの承認欲求は、他者からの尊敬や評価を得ることや、富や名声・権利を持つ、注目を浴びることなど、いわゆる他者承認によって満たすことができるとしています。



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これに対し、高いレベルの承認欲求は、自己承認によって満たされます。自己肯定感、自己信頼感、スキルの向上、能力の獲得、自立性などのいわゆる自己承認で満たすことができるとされています。


つまり他者からの評価よりも自分で自分を評価した方が、承認欲求を効果的に満たすことができるということです。しかし、普段の生活で怒られてばかりいるのに、自己肯定感や自己信頼感が高いという人は、人の意見を全く聞き入れない人か、かなりの唯我独尊者でしょう。よってある程度は自分の事を肯定的に捉えられるよう、外的な褒め言葉が必要です。この二つの承認欲求が満たされてこそ、次の段階の自己実現の欲求を満たすベースになります。


また、褒めることは人の成長を加速させるとも言われます。褒められることで、自分に自信がつき、同じことに取り組む場合でも自信を持って取り組む方が、粘り強さや踏ん張る力を発揮できます。自分が努力してきた成果や、結果を出すまでの道程を褒められると、自分のやってきたことが肯定でき、安心感も持てるようです。


“やる気がない”という言葉を時々聞きますが、頑張るためにはモチベーションの維持と回復が必要です。これも褒められることによって回復することがあります。


褒められることは自分自身のやる気を生み出すだけでなく、誰かのために頑張る力も生み出す効果があります。親であれば子供を守るためにはどんなことだって頑張れるという気持ちがあると思いますが、このように誰かのために頑張るという気持ちは、時として自分のために頑張るときよりもより力を発揮させます。


褒めてくれた相手に対して信頼を抱き、その人の期待に応えたいという心理が働き、結果として今まで以上に力を発揮できることもあります。いわゆるピグマリオン効果で、人は期待された通りの成果を出す傾向があります。


子育てではよく7つ褒めて3つ叱ると言われます。これは褒めてばかりだと相手は次第に本心から言っているのかなと猜疑心を持つようになるためです。例えば皆様がコメディカルスタッフや子供を褒めるとき、日常では時々叱る、注意するという行動をとることで、褒めたときの効果が倍増します。友人、先輩でもいつも褒めるより、たまに本音をみせるということも効果的です。


褒めてばかりいるとつけあがることが考えられますが、自分が頑張った、ここに力を込めた、と思う部分を褒めてもらうことはその人の成長にとっても必要です。


逆に悪影響になってしまうのは、「何をやっても上手」「任せて安心」など、漠然とした褒め言葉です。「何でも出来るんだ」「すべてが許される」と思われてしまうのは、褒めた人の意図とは違います。従って褒めるべき部分をピンポイントで褒めることが大切でしょう。

                                                   明日につづく