こうした作用の1つに、味覚を保つことがあります。昔ながらの基本的な日本食には亜鉛が豊富な食品が多く使われていたため、取り立てて亜鉛不足が指摘されることはなかったのですが、加工食品の摂取頻度が高い現代においては、食生活次第で亜鉛不足に陥ることも多くなっていると言われます。

例えば、亜鉛が豊富に含まれている食材とされる牡蠣でも100gで亜鉛含有量13.2mgであり、日常的に食卓に上がる白米や木綿豆腐で0.6mg、納豆(100gは一度に食べられませんが)で1.9mg程度なので、推奨量を達成するにはかなり意識的な心がけが必要です。

一方、不足栄養素を市販のサプリメントで補う方も多いですが、過度の摂取は逆に慢性的亜鉛過剰症を引き起こし、貧血や免疫障害のほか、過剰症によってもやはり味覚・嗅覚低下といった症状を来しますので注意が必要です。
平成20年 国民健康・栄養調査では20歳以上で8.0㎎/日の摂取と平均から見ると大きく不足はしていません。(平均必要量 男性:7~8㎎、女性:7㎎)
通常の食事が摂れていれば、過剰症・欠乏症の心配はほとんどないですが、インスタント食品・加工食品に偏りすぎた食生活やアルコールの過剰摂取により不足が懸念されます。
加工食品やファーストフードには亜鉛吸収を阻害する食品添加物が含まれます。また、アルコールの分解に亜鉛が使われますので、休肝日をつくったり、飲酒量を調節したりといった配慮が必要です。
(目安量:ビール500ml/日、日本酒1合/日など)
味覚障害は、それ自体が生命に関わるものではないですが、健康的な生活の根幹にかかわる食事を十分に楽しめないことは、食事にまつわる生活習慣の変調(個食や孤食が増えるなど)のみならず、うつや筋力低下、フレイル、さらには要介護へとつながる悪循環の発端になりうるということは見逃せません。
長い期間をかけてうつやサルコペニア、フレイルという状態に陥らないためにも、一日三度の食事は加工食品を少なく、味覚を損なわないようにして、エネルギー不足・過剰にならないようにしっかり摂っていきたいものです。