群馬リハビリテーション病院リハビリテーション部です

回復期リハ病棟156床。伝統的なリハビリに加え、早朝リハビリも施行。さらにHAL、歩行アシスト、足首アシスト、IVES、REOGO-J、Walkaideなどを中心とするロボットリハも駆使して、患者さんが良くなるために奮闘中。

医師会報アーカイブ(平成26年6月号)

毎月、群馬県医師会報に寄稿していますので、少し難解かも?しれませんが、たまには掲示してみます。当院理学療法士から一番反響のあった原稿です。

リハビリテーションにおける立ち上がり訓練の重要性


最近、回復期リハ病棟において集団立ち上がり訓練を実施している病院が増えている印象がある。立ち上がり動作は日常生活評価のFIMにおいて、18項目ある評価項目の実に7項目に関連し、ADLにおける立ち上がり動作については療法士に限らず、看護師等も重要性を示唆している。集団立ち上がり訓練を実施している病院では、手帳などに回数を記録することや、カードに判子を押して実施回数を見える化すること、みんなで一緒に会話しながら行うことなどによって、単調な立ち上がりという動作の継続に対し、患者のモチベーション維持に配慮を行っている。

 脳卒中ガイドライン2009でも、起立-着席訓練や歩行訓練などの下肢訓練の量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められる(グレードA)とされており、「立ち上がり動作がADLを制す」という合い言葉のもと、個別訓練に加えて取り組まれている病院もあるようだ。

 健常中高年者を対象にした調査では、一日の立ち上がり回数の目安を見つけることはできないが、廃用性筋萎縮防止に歩行量が重要であるとした報告は多くある。日常生活の歩行量が4000歩未満では、明らかな麻痺やその他の疾病がなくても筋力と筋横断面積が減少するとされている。同様に病床にある高齢者も廃用症候群の防止のためには、一般の高齢者を参考に、同程度の筋活動量を確保することが重要となる。筋活動量をベースに調査した研究では、歩行4000歩に相当する大腿四頭筋の筋活動量は、スクワットで160回程度、立ち上がりは260300回程度としている。自転車エルゴメーターは中でも優秀で、1516分でこの筋活動量を満たすとされている。一日4000歩の歩行量を毎日確保することが難しい重度障害をお持ちの方でも、上記のいくつかを組み合わせて考える。例えば2000歩あるいたら立ち上がりは130150回実施することで、一日4000歩分の必要活動量を確保し、廃用症候群に至らないようにする工夫することができる。

廃用症候群の予防のため、理学療法士は発症直後のベッド上臥床中からリハビリテーション介入を行っている。しかし、ベッド上で大腿四頭筋に対して高負荷低頻度のトレーニングを行っても、筋力増強効果に乏しく、むしろ筋萎縮が起こったと報告されているものもあり、効果を求める理学療法を行う上では、抗重力位での活動は外せない。

 さらに下腿三頭筋は臥床時において、大腿四頭筋と比べ筋萎縮が生じやすいという報告もある。下肢の筋を大腿四頭筋、下腿三頭筋等を単独で別々に強化するよりも、立ち上がり、立位を伴った抗重力活動が効率的である。歩行するための下肢筋力を鍛える上では、単純な筋トレのみだけに頼るのではなく、歩行の筋収縮に近い状況でのトレーニングがより効果的であり、筋収縮の協調タイミングという点からも有効と考えられる。

漸増負荷抵抗による筋トレも筋力増強には効果的とされるが、機能的なパフォーマンスの改善には疑問がある。つまり、筋力トレーニングによって筋力は増強するが、動作スキルの学習も合わせて行わないと、結果としての動作能力の向上は難しい。単一筋の抵抗運動だけでは、立ち上がり動作の改善にはつながらない。

通常脳血管障害で片麻痺になった症例の健側(良いほうの膝伸展)筋力を計測すると、健常者の同世代と比べ約30%以上減少との報告が多い。皮質脊髄路の延髄交差が3/4以上であることも影響があるが、脳卒中罹患後の廃用症候群の関連も考えられ、廃用予防のためのリハビリが不十分とも考えられる。

患者さんに一日300600回の立ち上がり訓練を実施している病院がある。そこではHirschbergの考え方を重視しており、「片麻痺リハビリテーションでは、麻痺が改善しなければ歩行やADLを改善できないという考え方は誤りで、健側肢を強化することが重要である」というものである。さらにこの病院では「健側肢は不幸なことにしばしば無視され、医師・看護師・療法士は、麻痺側だけに注意を払い訓練やストレッチをする。その結果、健側に著しい廃用が生じる。よって、片麻痺のリハビリにおいては、まず何よりも歩行の回復に全力を挙げる。上肢が完全に回復しても、歩行不能であれば全体としてのリハビリは失敗と考える。」としている。

ここまでの考え方はいささか乱暴な感じを受けるが、運動不足により脳卒中などの疾病発症前にすでに廃用症候群に至っている症例を経験することがある。その後、リハビリテーションを実施するわけだから、継続的な立ち上がりや歩行訓練が奏功する場合も多い。また、この病院では回復期リハ病棟を退院した症例についての検証も行っており、立ち上がり訓練が嚥下機能の改善にも繋がったとしている。どんな関係があるのか私には類推することは難しいが、回復期リハを終了した患者に対しても立ち上がり訓練で結果が出せるという好例であろう。

患者本位の名の下に、「患者さんが疲れるから」、「楽にリハビリが行えるように」、「痛みが出ないように」等への配慮を行う余り、逆に廃用症候群に至らしめることも少なくない。リハビリテーション医療全体としての目的意識の欠如、療法士の知識・技術不足、チーム医療教育の不足等が指摘されているが、プラットホーム上臥床中心で療法を組み立ててしまっていては、結果を残さず、患者さんを良くできない療法士に成り下がりかねない。厚生労働省もリハビリの必要性を認めつつも、改定の度に報酬を少しずつ下げており、厚労省が持つリハビリ医療に対する不信感を払拭する努力も必要なようだ。

おとなしく病室で過ごす方よりも、煙草を吸いたいがために、車いすに乗って喫煙所まで足繁く通う患者さんの方が、ADL改善しやすい?という笑えない話もある。検証は行わないが、少なくとも短期的には元気そうに見えるのは気のせいではないはずだ。