温熱療法の効果について良い文献がありましたので紹介します。
多臓器合併症を持つ高齢下腿切断患者に対する全身温熱療法の有用性
Japanese Journal of ComprehensiveRehabilitation Science (2014)
閉塞性動脈硬化症,糖尿病,狭心症(CABG 後),非切断側難治性潰瘍を合併した片側下腿切断患者に対して,ホットパックと防寒シートを使用した全身温熱療法を行い,歩行の獲得に至った症例を報告している。
症例
70歳代,男性
診断名:左下腿切断
既往歴: 両側閉塞性動脈硬化症,糖尿病,狭心症(CABG後),白癬症(手足爪),慢性腎不全,脳梗塞(軽度左片麻痺残存)
転科時所見
MMT下肢筋力 2~3
FIM(運動項目17 認知項目19 合計36 点)
睡眠疼痛のため,1~2時間ごとに覚醒し,不眠のため,不穏状態となっていた。
退院時所見
MMT下肢筋力 おおむね4
動作・ADL
歩行:両ロフストランド杖 屋内修正自立・屋外監視 連続歩行距離120 m
FIM(運動項目81 認知項目35 合計116 点)
睡眠1~2回の中途覚醒。
経過
転科2週間後から,ホットパックと防寒シートを利用した変法の和温療法を開始した。感覚障害もなく血流量が保たれている腋窩と鼡径部にホットパックを置き、30分~60 分間、防寒シートで頸部以下の全身を包んだ。温熱療法は,週4~5日間実施。
温熱療法開始後
開始2週間後、皮膚灌流が改善を認め、疼痛は軽減し、睡眠障害も軽減。発言も前向きなものとなってきたため、目標を義足・歩行補助具を使用しての屋内歩行自立および屋外近距離歩行自立に設定した。理学療法は立位練習を中心に,作業療法は,義足を使用しての日常生活動作練習を中心に変更。その後約2週間で、平行棒内での義足・足底板を使用した立位バランスが向上、仮義足を作製し義足装着練習を開始した。4週間後には、歩行器歩行練習を開始し、下腿浮腫や息切れ、BNP 上昇などの心不全徴候を認め、飲水・食事や内服薬調整を行いつつ、Borg Scale,血液酸素飽和度,心拍数など心負荷に注意して義足歩行練習を継続した。12 週間後には両側ロフストランド杖で屋内歩行が可能になった。18 週間後には心不全兆候認めず、両側ロフストランド杖で屋外歩行練習が可能となった。温熱療法開始19 週間後、両側ロフストランド杖・PTB 義足・右足底板装着下であれば近距離屋外歩行が自立可能となり自宅退院した。
末梢循環障害が原因で切断に至った高齢者は、全身的にも動脈硬化が進行しており慢性腎不全や虚血性心疾患を合併することも多く積極的なリハビリテーションが行えないこともしばしば経験する。また切断後の義足歩行能力獲得に対して阻害因子である健側下肢の潰瘍も合併しやすい。近年、慢性心不全や閉塞性動脈硬化症などに対して遠赤外線を使用して全身温浴を行い、深部体温を1~1.2 度上昇させる温熱療法(和温療法)が有用であるとの報告がある。和温療法は,慢性心不全患者にも施行可能で、心不全状態の改善効果があること,閉塞性動脈硬化症の患者に対して、下肢疼痛の軽減、血流改善を認めること、自律神経系のバランスを是正することなどが効果として挙げられ、筋力の向上に対しても効果があるとされる。
単純なホットパックでは、身体やホットパックの直接身体に触れていない部分から,外気へと熱が放散するだけで、温浴効果は期待できない。また、防寒シートだけでは、身体自体から出ている放射熱を留めるだけであり、身体自体を温め体温を上昇させることはできない。腋窩で測定した体温が1度上昇していたことは,身体だけではなくホットパックからの放射熱を留めたため、深部体温も上昇した結果といえる。
文章のみなので、非常にわかりにくいことと思います。しかし、通常のリハと和温療法の組み合わせは、当院で言うところの通常リハと温泉(入浴)療法に通ずる部分があり、温熱療法(温泉)の効果とも考えられます。実際の写真等は文献を参照いただけると一目瞭然ですので、ご参照いただきたいと思います。