11月上旬に長野県で開催された日本認知症学会で、川崎幸クリニックの杉山孝博先生は、自らの豊富な臨床経験から編み出した「認知症をよく理解するための9大法則・1原則」に基づいた「介護者が認知症を理解するためのポイント」を解説した。先生は公益社団法人認知症の人と家族の会に30年以上にわたり参加されており、今日はこれについてご紹介する
第1法則「記憶障害に関する法則」
新しいことや経験したことも忘れるが、過去のことは覚えている
最近のことは大きなイベントでもわからないが、昔にさかのぼって記憶を失う
10年、20年と忘れるが、最後に残った記憶がその人の現在の世界であるということ
第2法則「症状の出現強度に関する法則」
より身近な人、安心できる人に対するほど、強い症状を見せる
辛くあたられたら、本人にとって身近な存在になっていると心得る
例:家の中では財布がなくなった、トイレがわからずに失敗するのに、外に出るとシャンとしている
第3法則『自己有利の法則』
自分が不利になることは、決して認めない
一見会話が成立しているが、固有名詞が出てこない。作話や言い繕いが上手である
第4法則『まだら症状の法則』
「しっかりしているところ」と「おかしいところ」が入り混じる
時間帯によって症状がひどかったり、突然我を取り戻したように話が理解できたり。記憶はかなり障害されているのに判断力、理解力等がある程度保たれているような状態
第5法則『感情残像の法則』
言ったり、聞いたり、行ったことは忘れるが、感情は残像のように残る
何で怒られたかは覚えていないが、嫌な思いをしたことは覚えている
対処する方法としては、
①褒める、感謝する ②同情、あいづちをうつ
③共感する、「よかったね」を付け加える
④謝る、事実でなくても認める、上手に演技をする
第6法則『こだわりの法則』
一つのことにこだわり続ける
説得や否定はこだわりを強めるのみ
本人が安心できるように誘導する
対処法 ①こだわりの原因を見つける ②そのままにしておく
③第三者に登場してもらう ④関心を別に向ける
⑤地域の協力理解を得る ⑥一手だけ先手を打つ
⑦本人の過去を知る ⑧長期間は続かないと割り切る
たとえば尿失禁には
オムツという方法もありますが、オムツは対象者が嫌がることがあります。自分で排泄する能力を低下させる原因にもつながります。そこで、床にビニールなどを敷いたり、拭きやすい床材に変えれば、楽に後始末をすることができるので、ストレスが減ります。
第7法則『作用・反作用の法則』
対応が強いほど、反応も強くなる
認知症の人と介護者の間に鏡を置いて、鏡に映った介護者の気持ちや状態が、認知症の人の状態であると思うこと
第8法則『症状の了解可能性に関する法則』
難しい症状も、認知症の人の立場で見ると分かる
すべての症状は荒唐無稽なものではなく、本人にしてみれば意味があるということを理解する
第9法則『衰弱の進行に関する法則』
認知症の人の老いは早く進む。認知症になっていない人の2~3倍のスピードで進み、一般高齢者の4年後の死亡率が28.4%であるのに対し、認知症高齢者では4年後の死亡率は83.2%である。
一原則「介護に関する原則」
認知症の世界を理解し、大切にすること
その世界と現実とのギャップを感じさせないようにする
介護の分野ではかなり有名な法則のようですが、当院のリハビリテーションにも参考にさせていただく部分がかなりあるように感じます