クオリティ・オブ・ライフ(QOL)という言葉をご存じでしょうか
我々リハビリテーションに従事する者が養成校に入学して最初に教わることです。
「生活の質」「人生の質」と訳されることが多く、生きる上での満足度をあらわす指標の一つです。
QOLは日常生活において自分の身の回りのこと(セルフケア)と、仕事や家事など(生産活動)と、遊び・レジャー(余暇活動)の3領域に区分されます。
患者さんやご家族様の多くは「自分の身の回りの事くらいできないと」、「仕事や家事ができないと困る」と訴えられる事が多く、遊び・レジャーなどの余暇活動について考える事は後回しになりがちです。
今回紹介するのは脊髄損傷で両手の動きが不自由な方です。
日常生活は食事など全て介助をうけないと自力で行う事は困難です。
疲れやすくリハビリ以外の時間はベッドで寝ている事が多い方でした。
この方の生きがいは家族と携帯電話で長電話することで、電話をかけて話したいけど、準備や片付け、相手が電話に出なかったときに時間をあけてかけ直すことなどを毎回スタッフにお願いするのを心苦しく思っていて、どうにかできないかと考えました。
車椅子の肘おきにテーブルを装着すると高すぎて手がうまく動かせないので、図1のように改良しました。切れ込みが入っているので誤ってテーブルが落ちてしまうこともありません。
手のにぎりはなしができず、ボタンが押せないので図2のように自助具を作成しました。先端部には摩擦係数の強いプラスチック粘土がついています。この摩擦感をもつ素材を見つけるのに苦労しました。
イヤホンマイクを介助し、環境を図3のようにセッティングをすることで、誰と、どの順番で、どのくらい長電話を楽しむかが患者さんご自身で選択できるようになりました。
長電話が楽しむことができるようになったことで、車椅子に座っていられる耐久力も向上し、現在では食事も車椅子上で自力摂食できるようになってきました。
好きなことを楽しむためであれば人は努力を惜しみません。時には努力とすら思わないかもしれません。
ですがこのように楽しむことが結果的に他の機能を底上げし、できることが増えていくことがあります。
コロナ禍において我々の生活環境は一変してしまいましたが、楽しくリハビリができ面会できない中でも家族とコミュニケーションがとれるよう、我々は考え、提供し続けていきます。
患者さんのお役(O)に立てる(T)作業療法士(OT)でありたい。
担当記事:作業療法士 いちかわ